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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(行ツ)73号 判決

上告人

郵政大臣

河本敏夫

右指定代理人

板井俊雄

ほか五名

被上告人

中央教育放送株式会社

(設立中)

右代表者発起人代表

松下正寿

右代理人

中村弥三次

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告指定代理人板井俊雄、同山口智啓、同高田希一、同太原幹夫、同松沢経人、同秋沢弘の上告理由第一について。

論旨は、要するに、(一)本件異議申立て棄却決定が取り消されたとしても、上告人は訴外財団法人日本科学技術振興財団(以下訴外財団という。)に対する免許を取り消すべき拘束を受けるものでなく、しかも、係争の周波数は一波のみであるから、すでに訴外財団に免許が付与されている以上、被上告人は、上告人のした本件棄却決定の取消しを求める利益を有しない、(二)かりに然らずとしても、訴外財団に付与された予備免許(のちに本免許)は、昭和四〇年五月三一日その免許期間を満了したから、その後において、被上告人は、右予備免許が自己に付与されるべきであつた旨を主張して、本件棄却決定の取消しを求める利益を有しない、と主張する。

しかし、(一)訴外財団と被上告人とは、係争の同一周波をめぐつて競願関係にあり、上告人は、被上告人よりも訴外財団を優位にあるものと認めて、これに予備免許を与え、被上告人にはこれを拒んだもので、被上告人に対する拒否処分と訴外財団に対する免許付与とは、表裏の関係にあるものである。そして、被上告人が右拒否処分に対して、異議申立てをしたのに対し、上告人は、電波審議会の議決した決定案に基づいて、これを棄却する決定をしたものであるが、これが後述のごとき理由により違法たるを免れないとして取り消された場合には、上告人は、右決定前の白紙の状態に立ち返り、あらためて審議会に対し、被上告人の申請と訴外財団の申請とを比較して、はたしていずれを可とすべきか、その優劣についての判定(決定案についての議決)を求め、これに基づいて異議申立てに対する決定をなすべきである。すなわち、本件のごとき場合においては、被上告人は、自己に対する拒否処分の取消しを訴求しうるほか、競願者(訴外財団)に対する免許処分の取消しをも訴求しうる(ただし、いずれも裁決主義がとられているので、取消しの対象は異議申立てに対する棄却決定となる。)が、いずれの訴えも、自己の申請が優れていることを理由とする場合には、申請の優劣に関し再審査を求める点においてその目的を同一にするものであるから、免許処分の取消しを訴求する場合はもとより、拒否処分のみの取消しを訴求する場合にも、上告人による再審査の結果によつては、訴外財団に対する免許を取り消し、被上告人に対し免許を付与するということもありうるのである。

したがつて、論旨が、本件棄却決定の取消しが当然に訴外財団に対する免許の取消しを招来するものでないことを理由に、本件訴えの利益を否定するのは早計であつて、採用できない。

また、(二)免許期間の満了に関する所論について考えるに、訴外財団に付与された予備免許は、昭和三九年四月三日本免許となつたのち、翌四〇年五月三一日をもつて免許期間を満了したが、同年六月一日および同四三年六月一日の二回にわたり、これが更新されていることが明らかである。もとより、いずれも再免許であつて、形式上たんなる期間の更新にすぎないものとは異なるが、右に「再免許」と称するものも、なお、本件の予備免許および本免許を前提とするものであつて、当初の免許期間の満了とともに免許の効力が完全に喪失され、再免許において、従前とはまつたく別個無関係に、新たな免許が発効し、まつたく新たな免許期間が開始するものと解するのは相当でない。そして、前記の競願者に対する免許処分(異議申立て棄却決定)の取消訴訟において、所論免許期間の満了という点が問題となるのであるが、期間満了後再免許が付与されず、免許が完全に失効した場合は格別として、期間満了後ただちに再免許が与えられ、継続して事業が維持されている場合に、これを前記の免許失効の場合と同視して、訴えの利益を否定することは相当でない。けだし、訴えの利益の有無という観点からすれば、競願者に対する免許処分の取消しを訴求する場合はもちろん、自己に対する拒否処分の取消しを訴求する場合においても、当初の免許期間の満了と再免許は、たんなる形式にすぎず、免許期間の更新とその実質において異なるところはないと認められるからである。また、免許申請者たる原告(被上告人)自身に対する拒否処分(異議申立て棄却決定)の取消訴訟において、右棄却決定が取り消されて被上告人に予備免許が付与された場合には、以後法定の期間(昭和二五年六月一日から起算して三年ごとの期間)内において免許人たる地位を保有し、免許期間満了にあたつては再免許を申請しうるのであつて、本件において被上告人が申請し、訴外財団に付与された免許期間が、たまたま前記法定期間の定めにより昭和四〇年五月三一日に満了するからといつて、所論のように、本件免許申請を右同日までの免許人の地位の取得のみを目的とするものとして捉え、その申請の対象となるべき免許の有効期間が満了した以上、本件異議申立て棄却決定の取消しを求める訴えの利益が失われるとする見解は、原免許者に再免許の申請が許されることを無視した形式論にすぎない。

要するに、本訴について訴えの利益を否定する論旨(一)、(二)は、いずれも採用し難い。

同第二について。

論旨は、要するに、(一)本件異議申立てについて上告人のした決定は、電波法九四条二項が、郵政大臣の決定書に電波監理審議会の認定した事実の記載を要求する趣旨にかなうもので、原判決は同条項の解釈・適用を誤つたものであり、また、(二)電波法には、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独禁法という。)八一条、八二条一号または土地調整委員会設置法(以下、設置法という。)五三条、五四条一号のような規定がないにもかかわらず、原審がみずから事実を認定することなく、上告人の棄却決定を取り消したのは、実定法上の制度に反して、電波法九九条の解釈・適用を誤つたものである、と主張する。

しかし、(一)電波法九四条二項が、郵政大臣のなすべき異議申立てについての「決定書には、聴聞を経て電波監理審議会が認定した事実を示さなければならない。」とする理由は、郵政大臣の行なう異議決定が、司法手続に準ずる争訟手続によつて行なわれるからであつて、かかる手続においては、提出された証拠によつて事実を認定し、認定した事実に基づいて法を適用すべきであるから、法適用の根拠となつた認定事実を表示することは、この種の手続に内在する必然的な要請であるといわなければならない。

そして、審議会の認定すべき具体的事実の内容は、原判決の指摘するように、(イ)科学技術教育放送事業の実施の確実性の優劣については、これを比較するに足りる「例えば、保有資金の量及び外部からの資金獲得の能否、程度、これに伴う工事費支弁能力についての保障の有無、業務運営に関する収支見積の現実性及び継続性の存否、程度等に関する事実」、(ロ)放送の公正かつ能率的普及への適合の度合の優劣については、これは、これを比較するに足りる「例えば、予定された放送の内容、編成、当該地域への結合の程度、他のラジオ、テレビ、新聞等の事業からの支配介入の有無、これらの事項を綜合したチヤンネル・プランヘの適合の仕方等に関する事実」であると解すべく、これなくしては競願関係にある両者の優劣の比較考量はありえない。しかるに、上告人のした異議申立て棄却決定書の記載は、原判決添付決定書写しのとおりで、これを必ずしも、一般的、抽象的な見解の表明にすぎないとはいえないとしても、なお、前記のような法の要請にかなうものとはいい難い。

また、(二)所論独禁法八一条、設置法五三条の規定は、委員会が正当の理由なくして当該証拠を採用しなかつた場合、または委員会の審判に際して当該証拠を提出することができず、かつ、これを提出できなかつたことについて過失がなかつた場合にかぎり、当事者に新たな証拠の申出を許したものにすぎず、しかも、この場合、裁判所は、みずから新たな証拠の取調べをすることはできず、その取調べの必要があると認めるときは、当該事件を委員会に差し戻さなければならないことにしているのである。また、所論独禁法八二条一号、設置法五四条一号が、審決または裁定の「基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない場合」に、裁判所が審決または裁定を取り消すことができるとするのも、委員会の事実認定の拘束力を規定した独禁法八〇条、設置法五二条等と対比すれば、むしろ当然のことを規定したものというべく、所論のように、電波法に独禁法八一条、八二条、設置法五三条、五四条に相当する規定がないことの故をもつて、裁判所が、郵政大臣のした異議申立て棄却決定の取消訴訟において、みずから自由に事実を確定し、これに基づいて右決定に表示された電波監理審議会の判断の適否を審査しうるものと解することは、原判決説示のように、「事実については専門的の知識経験を有する行政機関の認定を尊重し、裁判所はこれを立証する実質的な証拠の有無についてのみ審査し得るに止めようとする規定の趣旨を没却」するものといわなければならない。

以上、原判決には所論(一)電波法九四条二項および(二)同法九九条の解釈・適用に関する違法はなく、論旨は、いずれも採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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